教員の知的行動学 No.5
                                             
名作は、台本から生まれる

                                          

はるか昔のことであるが、NHKテレビに出演したことがある。
わずか15分の番組であったが、びっくりした。
番組制作の人と1回話し合いをし、2回目のときに、その番組の台本を読みながら話し合った。
なんとわたしの出演する15分の番組が30ページにも及ぶ、分厚い台本になっていたのである。
1回目の話し合いのときに、かなり細かく話しあっていたが、ここまで詳細になっているとは予想していなかった。
この台本には、わたしの話す言葉、画面の映像、バックに流れる音楽等、番組を構成するすべての要素が1冊の中に詰め込まれていた。
この台本を見れば、すべてがわかる仕組みになっていたのである。
学校で行われている授業や学校行事も、このような台本を作って行うべきだと思う。
1時間の授業も学校行事も、TV番組の作品と同じである。
ただし1時間の授業は、監督も、プロデューサーもディレクターも、出演者も教員一人で行う作品である。
学校行事や学年行事も、詳細な台本が必要なことはいうまでもない。

1、授業案は微細案を立てる

授業案には、細案とか略案とかいろいろな書き方があるが、自分が行う授業案は、微細案を書くべきであると思う。
チャイムが鳴ってから、鳴り終わるまでの45分間での、教員としての自分が話す言葉すべてと、とるべき行動全部を書き出すのである。
そして、それによって予想される子どもの発言や行動もすべて書いてみるのである。
流れだけ書いてある略案で、思いついた言葉で進めていく授業と、微細案の授業との違いは、授業の中でのつまずきを事前に見つけやすいということである。
頭で考えていることを紙に書き出してみるのはたいへんであるが、紙に書いてみると、見えないものまで見えてくるようになってくるから不思議である。
もしここで子どもが「〜}といったらどうするか、この資料提示はもっと衝撃的にできないだろうか等など、紙の上でさまざまな葛藤が始まるのである。
また、教員としての発問も十分に練り上げられていくのである。
こうして微に入り、細に作られた授業案で行う授業は、まさに一つの作られた作品といえるに違いない。

2、学年行事も微細案を立てる。

遠足とか宿泊学習等の学年行事も微細案を立てるのである。
計画の段階から、子どもたちに配る文書、先生方への説明のレジュメなどさまざまな事前準備がある。
現地の下見、業者との連絡、費用の集金方法、子どもたちへの指導など、数多くのことがある。
実行を前にして、コース、歩き方、集合のし方、見学方法とシミュレーション

これらをすべて、「誰が、一までに、何を、どうするのか」という視点に立って、綿密に分担を決定し、すべて文書にしてみるのである。
いわば、学年行事の微細案を作るのである。
この台本を作ってみると、「あれはどうするのかな」「そうだ、これが抜けていたな」とか、気がつくものである。
この学年行事微細案を作っている途中が、紙の上での行事の予行演習なのである。
そして、この台本をもとに、学年行事の計画、実行を行っていくのである。
学校行事の実行を任された場合も、全く同様である。

3、学年会運営も細案の資料を作る

学年会議の運営もすべて台本を作って行うようにする。
学年主任だったときには、学年会議のために、学年会資料として毎週3〜4枚のレジュメを作り、会議を行うようにした。
そのレジュメには、その週に行わなければならない学年での行事や仕事分担、また、授業内容の考察など学年に関するすべての内容を記入して多くようにした。
口で話し合えば済むことも多いが、それらをすべて紙に記入しておくのである。
こうしておくと学年内の連絡ほんとうにスムーズにいき、わたしは知らなかったということが決して起こらない。
また、紙に書いてみると、前に話し合ったときには何とも思わなかったことが、ちょっと変だなと思えたるすることもあった。
何かを行う前に一回反省しているようなもので、まことに都合がよいのである。
この学年会資料は1年間で200枚以上になったが、次に同じ学年を担当するときに、貴重な参考資料になって役立つのである。
物事を行う時は、「計画・実行・反省」が原則であるが、反省を少なくするためには、計画を綿密にしていく以外にない。
すべてを紙に書き出した台本を作ることである。
紙に核という作業の中で、頭の中の別の部分が働き始めるのである。
よい、詳しい台本を書くところから、名作は生まれる。
よい台本がないところには、名作は決して生まれることはない。


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